『夜叉御前 山岸涼子』を班員3人でレビューしてみました。

今週は、ひとつの作品を3人でレビューしてみようかとおもいます。3人とも異なる視点になるのかそれとも感想がかぶってしまうのか?短かめの作品を中心にみんなで作品を持ち寄り、選定。今回は山岸涼子の『夜叉御前 自薦短編集』をぱそみ、ノブオ、ザンギュラがレビューしまっす。ちぇけらー!!

ぱそみ

山岸をはじめて読んだのは中学生のときで、『日出処天子』だった。
最初の感想は「うわっ、硬!」「四角っ!」
初めての人は彼女の線に慣れるのが大変かも知れない。
でもこれが魅力のひとつなのだー。
慣れてしまえば、山岸作品は外れがないのでついつい集めるはめになってしまう。
彼女のマンガは描写が淡々としているというか、あまり動的じゃない。
『日出処』も最初はバストアップばっかりだ。
でもそのなかで突然、人間イジキタナーイ部分を的確に描き出すときがあって、
どきっとしてしまう。
これは現在ダヴィンチで連載中の『テレプシコーラ』でもよくみられる。
このことも私が山岸マンガを読むときの楽しみひとつだ。
『天人唐草』という短編は(今回レビューする短編集とは別のに収められている。)
女ならなんらかの形で心に残る、というか考え込んでしまう作品ではないだろうか。
これは中学生くらいに読んでおくべきでした。
そんなわけで、中学生ぐらい、いや年令問わず女の子にすすめたいマンガだな。
ホントにもっと早くから山岸読んでおけば良かったなと思う。
もちろん男の人にも読んで欲しいよ。

ノブオ

ハイハイノブオです。今回から一つの漫画を何人かでレビューしてみましょうという新たな企画が始まりました。いろんなレビューを載せることによって新たな読み方を提示すると共に、作品というフィルターを通じて班員の考え方や価値観が垣間見えるわけです。イイネイイネー。でも書く方としてはちとキツい。ってのもアレ、ちょっとカッコイイ文章書けてヤッターと思ってたら、他の人のと見事に被っちゃったりして、しかもこっちが後出しだったりした日にはもう。「俺ノブオ。特技はパクリレビュー。4649!」ってなっちゃうわけ。特に今回のこの山岸凉子という、その作者の歴史や面白さを一定のコンセンサスとして得ている作家の場合特に被りそう。怖いねぇ。
というわけで俺は今回、この山岸凉子「夜叉御前」を、「萌え」という斬新かつ有意義な視点から読み解いてみたいと思う。
まずは「時じくの香の木の実」。初っ端からきました。巫女姉妹です。最早俺たちの間では基本中の基本である「巫女」を姉妹で持ってきました。しかも妹(ツンデレ属性所持)は不死の実を食べて一生ヨウジョの姿のままというオマケ付き。分かってらっしゃる山岸先生。「お兄ちゃん大好き!」な妹を選ぶか、はたまた陰りのある病弱姉を選ぶかはあなたの自由。なんなら複数攻略行っとく?
続いては「キルケー」。山の奥深くにある不気味な洋館と、謎の未亡人。このPC98時代を思い起こさせる泣きの設定と、誰もが夢見る「謎の未亡人」。まるで「うちはヨウジョだけじゃないから」と言わんばかりの、山岸先生の幅の広さを伺わせます。主人公達はそこで「永遠」を手に入れる―――、てわけだ。
続いて「笛吹き童子」。何故か「笛吹き同人」と聞きまちがえて、なんとも言えないKIMOTIになってしまうのは俺だけじゃないはず。一章でチラっとヨウジョを見せ、わたおに世代の心をグッと掴んで舞台は一転、王朝期へ。如何にも童貞漫画の主人公のような冴えない青年が、美しき笛の精に出会う(俺的最萌えキャラ)。この「人で在らざる系」のヒロインというのは、もうそれだけでヤクザなユーザーは「買い」なアツアツ属性。当時既にそれを予見していた山岸先生の前に、俺はただ立ち尽くすのみだった。
その近年のピュアガールイズムを当時既に模索していた山岸先生の才は、次の「海底より」で大成する。ここでお出ましになられるのは、不思議なチカラを持つ盲目美少女。繰り返します。盲目美少女。泣きゲーでバカ売れ確定です。今からグッズ展開を考えておく必要がありますね(笑)
総括として。確かに絵はみつみ美里を代表とする三日目東館シャッター前のような流行の絵柄ではない。ここで敬遠したユーザーは多いだろう。だがこの見事なまでにツボを押さえたキャラ作り、そして常に「恐怖」を内在させたストーリー展開。やはり名作たる「萌え」というのは一重にキャラクターデザインのみに依存するものではないなと、改めて思い知らされた。出来れば高橋・水無月ペアでゲーム化キボンヌ(笑)

ザンギュラ

一人だけ遅れちまったよ…。いや、ゴジラがね…。別にいいんだけどさ。

さて、作品の話を。短編集ということで、それぞれの話には関係は無いわけですが、いずれも怪談、伝記などがベースになっています。どの話もかなり重苦しい雰囲気の恐い話なので、正直読後の後味はあまりよくありません。とはいえ、話の構成が単純なのにもかかわらず、極めて高い恐怖を演出しているところはさすがですね。その恐怖自体は話の簡潔さに比べて非常に複雑で、その恐怖が一体何から起こるのか、また、感じた恐怖自体が幻だったのではなかったのか、といった、作品中の登場人物が受けている印象を、そのまま読者にも与えています。
恐怖についてもう少し。よく読んでみると、この短編集の中のほとんどの話でその恐怖が完結していない点が分かると思います。話自体は既に完結しているというのに、その恐怖の要因だけは何らかの形で残されているのです。トラウマや物理的被害、嫌な予感…。おそらく後味の悪さはここからきていると思いますが、それを補って余りあるほど、この恐怖は作品に奥行きを与えています。そういった恐怖を作品に、そして読者にも残せるほど、作者は繊細に、丁寧に描いているのでしょう。作品の完成度は、極めて高いといえるでしょう。

ゴジラ、面白かったよ。みんなも、観てみれば…。