映画「デビルマン」感想とツッコミ(ネタバレ有り)

ええ、観てきました、デビルマン。本当に、本当に酷かったです。まずは、それぞれのシーン・登場人物などについて思ったことを。

不動明
名前が漫画「デビルマン」の主人公と同じですが、どうやら別人のようです。…なんてトボケたくなるくらい、原作の面影なし。まず役者の演技が下手…どころではなく、演技してないです。見事な台本の棒読みで感情のカケラも感じられません。特に見てられなかったのが叫ぶシーン。「えあー」って、ヒーローごっこで遊ぶ子供だってもっと上手くやってます。原作で明の心情や行動の動機が分かるシーンが全てナアナアになっていて、観客に「で、何がしたいんだお前は」と思われたまま勝手に死んでいく。
飛鳥了
こっちも役者の演技が酷いのは同じですが、若干明役のよりマシに思えます。どちらかというと脚本側の悪さが目立ってます。この映画での了は初めから自分がサタンであることを自覚しており、幼少のころから明と親友である、というのが原作との違い。このアイデア自体はアリだと思います。でも結果は全て原作の味を失うだけに終わってます。あの綿密かつ大胆な地球奪回&明ゲット計画も、行き当たりばったりのテキトーなものにされてしまっています。悪くするだけなら原作から変えんなよ。
ミーコとススム
UNKOだらけのこの映画の最後の良心。間違いなくこの映画の主人公はこの2人です。原作では共にチョイ役でしたが(ススムなんてただ死ぬだけ)、扱いがえらく大きくなっており、役者の演技も上手いです。特にススム役の子役は子役らしからぬ迫力のある演技で、この映画に出てるどの大人よりも上手いです。話の上ではデーモンと人間とデビルマンの関係の描写を主役から奪い、これだけはほぼ「原作通り」に描写されています。明は仕事が減って意味不明になりましたが、ヤツの演技ではどのみち何も表現できっこないのでミーコたちに任せたのは正解でしょう。そしてこのミーコと深く絡んだ牧村美樹も、原作とは方向性が変わってしまいましたが酷いキャラクターにならずに済みました。ヒロインから「重要な脇役」に格下げだけど。
デビルマン誕生
次はシーンについて。原作を読んだ人ならここで「…ヤバイ。」と思うことになるでしょう。簡単にあらすじを言うと、了が明にデーモン化した父を見せて「俺も取り憑かれた殺してくれ」などと言ってる内に明もデーモンに取り憑く、といもの。…だからさ、「より良いもの」にも、「別の形で同じ位良いもの」にもできないんだから変えるなって。その後のやり取りもおかしすぎて、観客のこの映画はあの傑作漫画「デビルマン」の映画版だ、という認識は間違っていることを教えます。ここでもう無理だ、と感じたら席を立つことをオススメします。「ハッピーバースデー、デビルマン」ふざけんな。
vsシレーヌ戦(ってほどでもない)
ここでアクション、演出面に関しても諦めることになります。カンフーもどきとCGで空中戦やった後あっさりデビルマン敗北。シレーヌ血まみれにならないしカイムも出てこないからあの名台詞が聞けません。コイツ人類守るの無理じゃん。明が気絶したら了(もうサタンってバレる)が止めに入って無効試合シレーヌの存在が全く無意味。
ジンメン
ジンメンに食われるのは初めの方から出てくる明のクラスメイト。彼には悪いけど、か弱い女の子が犠牲にならなきゃあの後味の悪さは出ませんわ。なぜかジンメンはデビルマンの存在を知らず、デビを仲間のデーモンだと勘違いしてるうちに正拳をズドン。「ほろびろ、じんめん。」気の抜けた台詞もあいまって理不尽ギャグのような光景が展開されます。どうもこの監督はジンメンを自然の法則に従う純朴なキャラだと勘違いしてるらしい。この後、ススムが登場するのでそこまでは辛抱です。
牧村家崩壊
…とは言っても僕が言いたいのは明が駆けつけた後のことだけです。家の中で美樹の生首(原作とは違い暴徒は既に全員どっか行ってます)を見つけた明が「あー」と阿呆のような声を3、4回くらい出します。どうやら叫んでるつもりらしいんです。原作を初めて読んだ時、もっとも衝撃的だった場面のはずが、目の前ではただ気の抜けた声を出しているだけ…このシーンこそが、僕が最も強く「デビルマン」が汚されている、壊されていることを感じて怒りすら覚えたシーンです。もうやめてくれと思いました。同時に、くやしさで泣きそうでした…。
ラスト
明とサタンの最後の会話はこれまでの下らない改悪が積み重なった、間違いなくこの映画で最低のシーンです。まるで意味不明。ちなみにサタンも死にます。まあこのサタンじゃ生きてても仕方ないですからね。その後、ミーコとススムが人類が滅びた後でも生き延びていることが分かり、生き抜く決意を表してこの映画は終わります。散々馬鹿をやらかした明と了こそ滅びるべくして滅び、本当の意味で人間の心を持つ2人は生き延びた。そう考えると、決して後味は悪くないです。

原作の「デビルマン」は、強い主張と無駄の無い構成にも関わらず、補完・想像の余地は大いにあるという、リメイクや二次創作の素材として最高に近い作品なのですが、それをここまで駄目に出来るってのが未だに信じられません。これ、後でビデオで観たりするとテレビを壊しかねません。それを考えれば1800円払って映画館で観るのも高くはありませんでした。これから観るという人は、観終わった後すぐに原作が読めるように用意しておくことをオススメします。